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健康情報広場

2011-02-28
Resident tumor と「ポチ子」
小山中央医院 院長 山中桓夫 (栃木県小山市)

 秋から冬にかけては、しばしば見事な夕日を拝めます。診療所の窓からは、遠くは日光白根連山、近くは大平山山系、そして富士山までもが鮮やかな夕日にシルエットとして浮かび上がります。たおやかな柔らかい線に縁取られて。目の前には近隣のビルが人工的な直線をもってくっきりと存在します。触ると山々は柔らかそうで、ビルは硬そうです。今回は、日常診療の基本の1つである触診に関する話です。ここは、栃木県は小山市の小さな診療所です。
 熱心な研修医が痩せた患者さんの腹部触診を行った際、時々「臍のやや下あたりに硬い腫瘍を触れます」とおっしゃるのがResident tumor(研修医の腫瘍)です。ご存知の方も多いと思いますが、人間が直立歩行するようになり脊柱のS字状湾曲が形成されました。その結果、臍のやや下あたりで腹側にカーブを描いていた脊柱が背側に向かってカーブを描きます。その曲がり角(岬角 the promontorium)が硬く触れる訳です。余談ですが、日光サル軍団の初代ジローは直立姿勢をとらせられつづけたため、脊柱が人間に近いS字状に変形(?)していたそうです。患者さん自身も稀ですが「お腹に硬いものが・・・」と訴えて来られることがあります。
 もう少し頻度の高いのが「鳩尾(みぞおち、みずおち)に硬いものが・・・」と言ってこられる患者さんです。胸の前面中心部を縦に走る骨が胸骨、そのお腹側に付いている軟骨が剣状突起です。この突起は30歳頃から少し骨化してきます。要するに硬くなってきます。そして、40歳くらいになると内臓脂肪も溜まって来ますので、硬くなった剣状突起を押し上げます。その結果、「鳩尾に硬いものが・・・」となります。
患者さんには、口頭でできるだけ解かりやすく説明します。それでも不安が解消されない患者さんもおられます。そのとき有用なのが触診の延長上にある超音波検査です。超音波画像を一緒に見ながら説明しますと納得され、不安解消です。
 さてもう一つの表題「ポチ子」、この妙な犬名には理由(わけ)があります。ポチ子は、まさに両の手に満たない小さな天使として突然我が家に現れました。ポチ子が晴れて我が家の一員となってまもなく、医師の当然の責務として、恐れ多くも天使の局所をチェック、明らかな突起物を触知、直ちに“雄”と判定、皆に安心するよう宣言。名も“ポチ”と命名致しました。数日後、獣医さんに診て頂く機会がありました。天使と共に帰宅した我が山の神は、開口一番“あなた、本当に医師免許お持ちなの?”。獣医殿の判定は、なんと“雌”。さらに、避妊手術まで施行、大枚お支払い申し上げたとの事。ご機嫌必ずしも芳しからず。私は、面目を失い冷や汗を隠しつつ実に冷静にしかも迅速に“ポチに子を付ければよい”と宣言した次第。
 皆様には、私が相当の藪医者と思われるでしょうが、決してそんな事はありません。触診を誤ったのは後にも先にもこれ一度でありますから。しかし、その後犬の解剖を学ぶ機会がない、だから何を硬く触れたのかは未だに不明。
 次回は、患者さんが“変なものを触れるのですが・・・”と訴えて来院、実際に病気だった例について話します。

 
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