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健康百話

2012-03-14
長廻雑記帖(43)医学の進歩という時代の病気
長廻 紘
 ヨーロッパ中世にペストの時代があった。ある時代ある地域で、ある病気が突如多くの人命を奪うことがあった。梅毒、結核の時代もあった。現代はさしずめ癌の時代といえるだろう。病原そのものにも盛衰がある。梅毒(スピロヘータ)はなぜか元気がなくなっている。時代というからにはやがて去ってゆく。すくなくとも衰える。ひところ猛威をふるった戦病死は日本ではなくなった。
 福沢諭吉は「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」といった。人に関してはそうであろうが、疾病に関してはどうであろうか。難病でも数が少ないと、利益と結びつかないのであまり顧みられない。病に上下はないのに。
 癌、脳卒中、心筋梗塞が日本人の死因の大半を占めることから、ながらく三大疾病と称されてきた。急増して国民病とさえ言われる糖尿病が2004年に加わって、医療法に基づいた四疾病に指定された。これらの疾病の医療体制を重点的に整えるためである。指定によって国民の関心が高まり、研究費を重点的に配分できるようになり、少なくとも三大疾病による死亡は減少に転じたか転じつつある。

 糖尿病は症状も乏しくそれ自体では死にいたるわけではない。軽く考えられがちである。しかし、万病の元と言われるぐらい重篤な合併症が多い。糖尿病を減らすことは確実に医療費の軽減につながる。三大疾病の基礎疾患でもある。さいきん精神疾患、特にうつ病とアルツハイマー病などの認知症患者が急増し、厚労省が従来の四疾病に精神疾患を加えて五疾病として新たに指定した。これは、生命に直結しないので従来の四疾病と性質を異にする。しかし急増が指定を後押しした。20世紀末より、うつ病は2倍(100万人、2010年)、アルツハイマー病は8倍(25万人、同)も増えている。ここ数年3万人を越える自殺者がある。その9割近くが何らかの意味で精神疾患が関係するとみなされている。
 病気の種類は、数えきれないほどある。そこにわずか5疾病を選別することの意義はなんであろうか。もちろん治すことである。疾病は、治す前に罹らないようにする啓蒙がより重要である。それ以上に医療費抑制につなげたいというところにある。五疾病観の基本にあるのは、最初は集中的投資によって資金がかかるが最終的には医療費減につながることを願っている。癌はこの間に2-30年の間に診断・治療が大幅に進歩し死亡率が減った。しかしはたして医療費が減ったか否かは議論のあるところである。癌治療の主流に躍り出た放射線療法、抗癌剤療法は高額で、庶民に手が届かないものになりつつある。医学が進歩すると医療費が増えるのは厳然たる事実である。医学の進歩こそ現代という時代の病気という逆説すらある。
 
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