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健康百話

2011-07-12
長廻雑記帖(20)高山線
長廻 紘
 山国日本、本州横断線はどこからどこへ行くにしても必ず山を上ってまた下る。風景は変わるようでかわらない、かわらないようで変わる。車中では飽きずに風景を見ている、酒を飲んでいる、本を読んでいる。狭い国だから、その内に必ず目的地に着く。「乙女の姿しばし止めん」と、着かないほうがよいと思えるときもあるが、着いてしまう。旅は途中が旅。着いてしまったら終わり。
 冬になると雪見旅に出ることが多い。2011年は久しぶりに雪の多い年だったので、豪雪地として有名な新潟県十日町を通る「ほくほく線」経由でまず富山のいつもの鮨屋へ行った。次の日同じルートで帰るのも気が利かないということで、高山線経由で名古屋へ出ることにした。朝8時の特急に遅れたが、別に急ぐ旅ではないと次、といってもずっと後の鈍行に乗った。1時間ほどで猪谷へ着き、列車乗り換え。移る間に折角雪見に来たと雪を小便で黄色くし融かして遊んでいたら、汽車は荷物を積んだまま出てしまった。猪谷というところはカミオカンデの名の元になった神岡鋼業所で栄えた街だそうだが、それが無くなってからは寂れる一方でスーパーも前年末閉鎖してしまい店はすべてシャッター。次は2時間後の特急までなし。食堂も喫茶店も無い。床屋は逃げる機会を逸したのか2軒残っていた。何処からともなく出てきたお爺さんと立ち話。「若い者はみな富山のほうへ出てしまい、そのうちに町全体が無くなってしまいます。あんたもこんな所へ何をしに来たのか」としきりに不思議がる。事情を話すと大笑いされてしまった。

 本は荷物とともに先へ行ってしまっていたので何にもする事が無い。ちょうど昼頃で腹を空かしたまま、無人のしかしなぜか暖房のある駅舎で2時間半ほど待って、やっとのことで来た特急に乗った。今度は前に行った高山行きの鈍行が持っていってしまった荷物が回収できるかどうか気に懸かってきた。特急だから停車時間が短いかと思ったが追加客車を接続するため5分止まった。田舎の人は親切で、ちゃんと高山駅で保護されていた荷物を無事確保。高山からは売り子も乗ってきて、遅い昼ごはんを摂り、深い眠りにおちいった。若干あせったが、過ぎてしまえば猪谷のエピソードは旅の華。
 先を急ぐのは旅でも人生でもない。旅は計画を立てる、持って行く(途中で読む)本と飲む酒をきめる、ボーッとしている車中。楽しみはこの三点セットの中にある。景色は時どき程度に見る。じっくり見てはいけない。見すぎると旅行評論家になってしまう。考えようによっては人生も旅である。出る前、途中、着いてからの旅三点セットは、人生に翻訳すると、出る前はない。気がついたらいたんです、が生の始まり。本と酒は仕事と遊び。雪の中で小便のような人生はきっと素晴らしい。着く頃にもはやすべては終わっている。
 
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