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健康百話

2018-02-20
健康百話(85)癌の治療
長廻 紘

 癌はどうしてできるか分からない謎の病気として恐れられてきた。どうしてできるか分からないから、とにかく取り除くというのが唯一の治療法であった。
取り除く方法は物理的に除去する(外科手術)、放射線照射あるいは薬(抗がん剤)で消滅させる。などといった方法がとられた。これらの中で手術が最も確実な除去方法として多用されてきた。しかし外科手術は癌だけではなく、多かれ少なかれ癌を含む臓器もなくしてしまう減損治癒である。たとえば胃癌を手術すると胃も全部ではないにしても取り去ることになる。そうであるから、できれば避けたい治療法ではある。
放射線治療は癌に放射線を照射して癌を消し去る方法であるが、完全に消すことは難しい上に癌周囲の正常組織も障害を受けるという手術と似たような欠点がある。照射法の改良によって癌だけに放射線が集中するような努力が続けられ極めて洗練されたものになってきたが限界はある。
抗がん剤治療は薬によって癌細胞を殺す方法である。抗がん剤の歴史は癌細胞を殺す物質を探す歴史ともいえ、多くはDNAの合成を邪魔することで癌細胞の増殖を阻止して殺す。やはり正常細胞とくに白血球や消化管上皮細胞などの若い細胞のDNAも巻き添えを食ってしまい、易感染性とか食欲不振などの副作用がおこる。今世紀に入り癌細胞だけを狙い撃ちする分子標的薬が登場した。癌細胞の表面に現れる癌の増殖にかかわる特定の分子の働きを抑えて殺すのだが、その分子がないと効果はない。他の問題は、使っているうちに癌細胞も病原微生物における耐性菌と同じように抗がん剤に耐性を持ち効かなくなる。
以上を分かりやすく言えば、指に不調があるときその指を切り落とすのが手術、不調も指もなくなる。指に放射線を当てて患部を無くす放射線治療では治っても指は機能不全。薬で治すと指は元のままで患部が治る、が治らないこともある。そういうわけで、病気治療の基本は薬物療法である。最近はよく効く薬がたくさん開発されるようになった。癌によく効く薬さえ少なからずある。
いよいよ癌も薬で治す時代に差し掛かった。たとえばオプジーボ。従来のように癌細胞を直接攻撃するのではなく、体内の異物を除く免疫の働きを利用する。従来の抗がん剤が効かなかった患者で(一部ではあるが)完全に癌が消失するケースもあり歓迎されている。オプジーボは、癌によってブレーキがかかったT細胞の攻撃力を回復して作用する免疫チェックポイント阻害剤という新思考の薬である。癌は日常的にたくさん生まれているが発育するに至らないのは免疫によって癌細胞が排除されているからである。これに対して癌細胞は免疫の攻撃に対してブレーキをかけようとしていて、この両者のせめぎあいによってできたての癌細胞の運命は決まってくる。このせめぎあいにおいて鍵を握るのがT細胞の表面に現れる免疫チェックポイント分子という蛋白質(PD-1)である。癌細胞がある程度成長するとPD―L1という蛋白質が現れこれがPD-1に結合しその作用を相殺し、T細胞は癌を攻撃しなくなる。オプシーボはこの結合を阻害することでブレーキを外しT細胞は攻撃力を取り戻す、免疫細胞の攻撃力を回復させる。

 
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