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健康百話

2018-02-20
健康百話(84)薬と医療費
長廻 紘

 「くすり九層倍」という。薬の値は原価に比べて非常に高く暴利をむさぼっている、という意味で使われる。それが現在も正しいかどうかはしばらく置いて、いろいろな意味で薬が国の医療費を圧迫している。一つは薬の無駄な使われ方。もう一つはあまりにも高価な新薬群の登場である。
医療費が安かった時代の名残か、日本の老人の間には薬はもらわなくては損という思想が浸透している。1.多剤投与 2。適量以上の投与 3.残薬。こういった現象は足し算医療といわれる。日本人は医者好きで、患者は多くの病医院を訪れ、それぞれのところで夫々の投薬を受け、薬や注射がないか少ないと不満顔ですらある。多くの医師は他所でどんな薬が使われているかあまり考慮せず、あるいは分からない状態で自分の診断に基づき必要な薬を処方してしまう。多剤投与は副作用のリスクを、とくに抵抗力の弱くなっている高齢者においては高める。薬相互間の関係は必ずしもよく分かっているとは言えないので、5剤以上の多剤投与はそれだけで悪影響があることが多い。同種の薬を減らすのは当たり前であるが種類の違う薬でも減らすと効果的なことがある。
4.必要以上に長く投与を続ける傾向がある。薬を使っているうちに出てくる症状が、対象になっている病気によるものか薬によるものか分からないことすらある。以上のような要因が重なったのが薬の多剤・過剰投与であり、その裏面として残薬(処方されたが飲まなかった薬)の問題も生じてくる。
5.薬の副作用に気づくのが遅い。高齢者にも成人と同じ量の投与がなされる。高齢者は加齢とともに代謝が低下してくるのに、成人と同じ量が処方される傾向にある。小児には小児用量というものがちゃんとある、のに。
薬、よく効く薬は莫大な開発費を使いしかも必ずしも成功するという保証はない。そうであるから製薬会社は成功したときにはできるだけ高く値段をつけたがるが、自社の一存で決めるわけにはいかない。薬の値段は国が決めている。新薬も何年かののちには安い類似薬(ジェネリック)が出てきて市場を奪われる。それにしても新薬オプジーボはあまりにも高いとの批判を浴び、半額に緊急値下げが行われた(2017年2月)。良い薬を作ったけれども採算に合わないということになると製薬会社の開発意欲に水を差す。なかなか難しい問題である。
医学部における医学概論の講義では、目の前の患者を救うことが医者の最大の使命でありそれ以外のことは考える必要はない、という教育を医学生は受ける。薬の値段がそれほど高くない時代にはまさにその通りであったが、一人の患者に年間で何千万円もの費用がかかる薬が登場するようになると、そのようなことを言ってばかりはおれない。個人はもちろん国の財源には限りがある。また金のある者だけが救われてよいものか、という議論も当然起こる。それでも良い薬は造り続けられなければならない。そんなところに自己規制をかけるのは不戦敗のそしりを免れない。作る側と規制する側は別でなければならない。

 
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