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健康百話

2017-11-20
健康百話(79)消化管の病気――食道、胃
長廻 紘

 英語では消化管・gutの複数形gutsガッツを精神のありかと考え勇気、根性などといった意味がある。日本語でも腹(肚)を心や度胸のありかと考え、腹が据わっている、腹が大きい、腹がないなどの熟語に現れている。洋の東西を問わず消化吸収の座である腹を大切な場所と考えているのが分かる。坐禅とか静坐のように姿勢を正し、規則的な腹式呼吸を行うことは肚をつくるとともに、消化管を強化する。なにかを消化するには力とエネルギーが要る。自分よりはるかに大きな大物を呑みこんで何日かをかけて消化に専念している蛇を思ってみればよい。軟弱な人間が食べ過ぎて腹痛を起こしたり下痢をしたりするのは、力不足だから当然である。
食物を処理する過程で消化管に各種の疾患が生じる。たとえば胃では消化の為に強酸である胃液が分泌されるが、胃液は食物にだけ働くのではなく自分自身(胃粘膜)にも作用してビランや潰瘍が生じる。胃粘膜がなんらかの理由で弱っていれば、消化されてしまう。消化管にできる癌も長い間に摂る食事の影響である生活習慣病であり、塩分の多い食事が胃癌の、肉食が大腸がんの主たる原因とされる。
食道は食べたものを胃まで運ぶ管である。重要な心臓や肺の近傍に胃のような騒がしいものが在っては心肺のためによくないから、食道という静かな管を通って食物は胸部をやり過ごす、そこは単なる通過点ではなく重要な任務を帯びた迂回路。食道は、薄まることなく原材料に近いままで接するアルコールや喫煙の影響を受けやすく、高齢者では生活習慣病としての癌に罹りやすい。食道は心臓や肺といった重要な臓器に接しているので手術が難しい場所である。とくに周囲に浸潤した癌の手術は難しい手術の代表といわれる。食道には分泌物が少ないといったが、噴門がゆるみ胃液の逆流が起こりやすい高齢者に逆流性食道炎が起こる。これは食道粘膜にビランが生じ胸やけや呑酸(逆流感)といった症状がある。明らかなビランがなくても症状を呈することもあるので胃食道逆流症(gastroesophageal reflux diseaseGERD)と呼ぶ。
胃には強力な酸である塩酸があり外部から入る微生物は生きていることはできないと信じられていた。胃に微生物が見つかることは知られていたが単なる混入と思われていた。そのような先入見にとらわれない若い学者がピロリ菌を発見した。その後ピロリ菌は胃の癌、潰瘍、ビランなど多くの病気の原因と分りその学者はノーベル賞を受賞した。ピロリ菌の発見の前と後とでは消化管の病気に対する考え方がすっかり変わってしまった。ノーベル賞は当然である。
肉眼的な変化がないので診断は難しいが、長く続く食後の胃もたれ、わずかな食事での満腹感、心窩部(みぞおち)痛などから診断されます。ストレスなどの心因性の要素が強くかつては神経性胃腸症といわれていた。最近では機能性ディスペプシア(FD)といわれる。高齢になると噴門の緊張がゆるんで胃液が逆流して食道粘膜を傷害する逆流性食道炎が起こるが特に夜間睡眠時に猛威を振るうので厄介なもの。内臓の働きは自律神経が支配していて、過度のストレスがあると自律神経のバランスが乱れてしまいFDの引き金を引く。

80.終わり良ければ総てよし――便秘
食べたものは口、食道を通って噴門から胃に入り小・大腸を経過して肛門から外へ出る。食物の体内での旅は長くて時間がかかる。食物は消化管の中で消化吸収作用を受けるので、場所毎に異なっている。鴨長明流にいえば腸内容の流れは絶えずしてしかも元のものにあらず。食物は食道や胃では素材のままに近い状態、腸を経てゆくにつれて吸収を受けるので大いなる変貌を遂げる。腸管は十二指腸、小腸、大腸からなる非常に長大な中空臓器で、蠕動運動で胃を通ってきた内容物を肛門側に送りながら消化と吸収を行っている。吸収されなかったものが大便として肛門から排泄される。
便は口から入った食物が消化吸収を受けた残りのものだけではなく、それプラス剥落した消化管粘膜と腸内細菌からなります。便の形は基本的には水分量によって決まります。水分が多いと液状から泥状、水分量が減るにつれて硬くなり量は減る。腸管の動き(蠕動)が激しいと、腸内容が速く送り出され液体が多く残った状態すなわち下痢便として出てくる。腸管感染症などで蠕動が高まり下痢便となるのですが、ある意味では悪いものを早く出してしまうことですから条件反射的に下痢を止めては良くない。逆に、腸内容がゆっくり出て行くすなわち腸に長く在ると、液体が吸収され過ぎて固くなり結果は便秘。
大便は一日一回出るのが普通ですが、かなり大きな個人差があります。下痢とは液状ないしそれに近い状態の便が排出されることで排便回数とは関係がない。便秘は便が出ないことだが普通は週2回以下の排便あるいは3日以上排便がないことをいう。下痢も便秘もそれだけでは一種の状態で病気とは言えない。下痢は色々な生理的病理的な原因によっておこり簡単に済ますわけにはいかないので、ここでは主として便秘について考えてみます。
便秘は先に挙げた腸管運動に影響される面が強いので、腸管運動の衰える高齢者に普遍的にみられる症状ですが、そのほかに、朝の通勤通学時間の関係で我慢するあるいは面倒くさがって先延ばしする、要するに排便リズムを人為的に狂わせることによっても起こります。若い女性に多いのは便が直腸まで降りてきているのに排泄できない直腸肛門型である。これは繰り返し我慢する結果直腸に便が溜まったことを知らせるセンサー作用が弱くなっていると考えられます。便秘の場合最も多いのは、腸管に特段の器質的異常が見られず、検査しても異常が見られない調の動きが悪い機能性便秘といわれるものです。
最初はさほどの苦痛はないものの便秘も長引くと腹部膨満感とか腹痛をおこします。便が石のように固くなって腸穿孔や腸閉そくを引き起こしたりします。三日以上続く場合は下剤を服用するあるいは重篤な基礎疾患が隠れている場合もあるので専門医に相談した方がよいかもしれません。便は毎日決まった時間に排泄されることが多いので、出ないとそのこと自身が悩みとなって今朝も排泄がなかったと悩みの種となる。決まった時間に便が出るということは、排便は生活リズムの一部を成すものであるから、旅行特に海外旅行や生活の乱れとくに食生活の乱れによって排便リズムに狂いが生じ便秘につながる。

 
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