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健康百話

2015-11-04
健康百話(35)人は歩く樹木
長廻 紘

 人類は樹木にたとえられます。歩く樹木。人間も遅ればせながら二本足で立って、土をふんばり太陽に向かって頭を伸ばしています。人体の中央部分・胴体と樹木の中央部分・幹を英語ではともにtrunkという。根、幹、枝葉に分けられる樹木は太陽に向かって必死に身体を伸ばしている、根でさえも。根は大地を押し分け下へ下へと進み、樹木全体を支えているとともに、目に見えない暗い所から樹木を養う養分 を得ています。そそり立つ幹は樹木の力を表象する力であり個性の具体化である。枝葉は偶発的な付属的な広がりです。
樹木と人間の違いは数えきれないほどありますが、癌になる、ならないもその一つでしょう。DNAを持つ同じ生物でありながら、人間に癌があり樹木に癌がないのは不思議といえば不思議ですが、誰も不思議とは思いません。
人間では内臓を含む体幹以外の手足はもちろん脳でさえ生きてゆくうえでは付属品に過ぎません。根幹である体幹内部(内臓)が癌になり易く、付属品は癌になりにくい。生きることがすなわち癌になる事であれば当然でしょう。樹木に瘤はできますが癌はできません。
樹木は生物です、ときには何百年も生きる生物です。分子生物学は癌遺伝子が生得のものである、疫学的研究は癌が生活習慣病であることを明らかにしました。長寿と生活があれば癌になるのはDNAを持つすべての生物の宿命です。そうだとすれば、そういう長寿と生活に恵まれた生物であるにもかかわらず樹木は癌になりません。樹木にはDNAがあり上記の如き生活もあります。動物が嫌がって吐きだす炭酸ガスを吸って呼吸し、土から栄養を得ているのに。
医聖ヒポクラテスは夙に、病気を予防する最もよい方法は節度ある正しい生活態度である、といっています。樹木が癌にならないのは節度ある正しい生活態度であるとすれば、節度あり正しいとは何でしょうか。癌に関して、樹木と人間の中間にあるのを仮に動物とすれば野生動物にも生活はあるがその生活にともなう癌はありません。癌になるまで生きないせいもあろうが、野生種の食生活は癌になるのとはほど遠い生物学的に正しいものである。しかし、人間に似た食生活をし長く生きるペットには癌があり、しかも最近は増えています。
人間は悪しき習慣のせいで癌になり、樹木は生えた場所から動かないという不動の習慣を持っているのに癌にならない。「そう、習慣だ。生まれてから身についた習慣ゆえに、好もしい生き方がすっかり台無しになったりして。このたった一つの欠点ゆえにすべて朽ち果てほろんで、世間の非難を浴びる(『ハムレット』第一幕4場)」。樹木は土から栄養を取っている。ということは土は全生物の母胎であり、そこに癌の原因があれば生物自体が滅ぶことになるので、土は反癌の砦ということになる。土に還れ、か。樹木になれば癌にならないと言われて樹木になりますか。
健康とは、自分自身で持てる能力を伸ばすこと、自然治癒力を活かし生きてゆくこと。人体は驚異的としか言いようのない構造と働きに守られて恒常性(ホメオステーシス)を保っている。定義が難しいからといって放っておくわけにはいかない。健康とは何であるか分かっていないと、先へすすまない。

 
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